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風の通り道
2012 / 01 / 13 ( Fri )
もう二度と帰らないつもりでした。
S少年の家出は、これで3度目でしたが、
今度こそもう、死ぬまで帰らないつもりでした。

怒りと、やるせなさと
満たされぬ想いで胸がいっぱいで、
ただひたすらに自転車をこぎました。

そして、いつかお友だちと来たことがある
ある山の麓の、小さな空き地にたどり着きました。

なぜかS少年は、昔から、この空き地の向こうの山を越えると、
自分が見たこともない、知らない町があって、
そこに行けば、今の自分の境遇のような
不和な家庭もなく、貧乏もなく、人も優しくて
幸せな暮らしができると信じていたのです。
ただし、一度越えてしまうと、
何年も帰ることができないと聞いていました。

実は、以前にも、一度ここまで来たことはあったのですが、
その時は勇気がなくて、その山を登ることができませんでした。

でも、今回はもう違います。

S少年は、大事にしていた自転車を
空き地の隅の、人目につかない場所にそっと隠すと、
しばらくじっと目をつぶって
ひと呼吸おいたのち、
意を決して、山に登り始めました。

家から衝動的に飛び出してきたままだったので、
何の用意もなく、お金もありません。
ですが、山の向こうの町にさえたどりつけば、
誰かがきっと面倒を見てくれると信じていました。

それから、S少年は無我夢中で山を登りました。
鬱蒼とした木々をぬけて、
ぬかるんだ道を歩き、
藪を越えて、
ただひたすらに、山の向こう側を目指したのでした。

そして、どのくらい登ったでしょうか。
長い長い時間のあとで、
ようやく頂上らしき場所にたどりつきました。

時刻はもう夕暮れに近くなっていました。
S少年は、ようやく、夢にまで見た憧れの町に着いたと思って、
頂上付近の一番見晴らしのよさそうな場所に走りました。

でも、そこからは、隣の山が見えるだけで、
何もありませんでした。
その山の向こうはまた山で、
そのまた向こうも山々が連なっているだけでした。

その時、初めてS少年は泣きました。
何が悲しかったのか、
なぜ涙が出てくるのか、
少年にはわかりませんでしたが、
ただただ、涙が止まりませんでした。



シゲさんは、そんなお話をされたあとで、
照れくさそうに笑いました。
あれから40年近くの歳月が流れましたが、
シゲさんは未だに独り身で、子供もいません。

私は、もう夕ご飯の仕度をする時間になっていました。
帰ろうとして、ふとお買いもの袋の中に、
おみかんがあったのに気がつきました。
そして、その中から、小さなおみかんを3個ほど、
シゲさんにあげました。

ありがとう。
そういえば、もう長いこと、みかん食べてなかったよ。
みかんって、どんな味か、忘れるところだった。

そう言って、シゲさんはまた、照れくさそうに笑いました。
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21 : 33 : 55 | 遠い空白い雲 | トラックバック(0) | コメント(22) | page top↑
クリスマスイブ~あるイブの夜のお話
2011 / 12 / 24 ( Sat )
イブなんだけんども、
私にはイブにまつわる
とくに面白いエピソードがありまっせん(笑)

そこで、今回はお友だちのワタリから聞いた
ちょっと切ないお話をご紹介したいと思います。

高校最後の年のイブの夜、
ワタリは、当時仲良しだったお友だち数人と、
お友だちの彼氏の自宅でクリスマスパーティをしていました。
参加者はワタリの他に、A子とB子、そしてB子の彼氏の大学生のC男さんです。

パーティは盛り上がって、
C男さんの弾くギターに合わせて、みんなで歌を唄ったり、
ケーキを食べたりしていたのですが、
そんな中、突然A子の携帯電話が鳴ります。

相手は、A子と大の仲良しのD子からでした。
電話口のD子は泣いていました。

D子は今夜、彼氏とイブを過ごしているはずですが、
どうしたのか、と思って理由をきいてみると、
待ち合わせの場所に彼がやってこないので、何度も電話したんだそうです。
そしたら、さっきやっとつながったので、
遅れている理由をたずねると、
彼は今夜、E子とイブを過ごしていることがわかりました。

つまり、この彼は、D子の他にE子とも約束をしていて、
E子のほうを選んだのです。
D子に何も連絡をしなかったのは、
『D子を傷つけたくなかったから』という理由でした。

待ち合わせの時間から、すでに2時間たっていました。
D子はその間、彼を信じて、ずっと待っていたのです。
電話口のD子の声は、泣いているせいと、
寒さのために途切れがちで、よくききとれなくなっていました。

A子は、そんな状態のD子を、このまま放置できないと思いました。
そこで、みんなに事情を話して、
D子のそばにいてあげたいので、
わるいけど、自分はこれでパーティを抜けると言いました。

すると、C男さんが、
じゃあ、みんなで、迎えに行こう。
D子さんも、一緒にクリスマスをしよう、
と言ってくれたのです。

ワタリも、C男さんも、D子とは面識がありませんでしたが、
A子のお友だちなら、みんな異存はありませんでした。
A子は、D子にその場所で、もうしばらくそのまま待っているように言ったあと、
C男さんの車に全員乗車して、D子を迎えに行ったということです。

このお話をきいて、
私は『やさしさ』って何だろうと思いました。
D子の彼氏は、
『D子を傷つけたくなかったから、本当のことを言えなかった』
と言ったそうですが、
私は、それは『やさしさ』ではないと思います。

彼は、D子を傷つけたくなかったのではなくて、
自分が傷つきたくなかったのだと思います。

本当のことを知るのは、それをきくほうも辛いですが、
それを告げるほうも辛いのです。
本当のやさしさとは、
こんなことになるまえに、
自分も傷つくことを承知で、きちんと真実をD子に告げるべきだったのでないでしょうか。

今夜も、世界中で、
いろんなイブの物語が生まれるんだろうと思います。
どうぞ皆さまに神の祝福を。
素敵なクリスマスになりますように。

07 : 43 : 02 | 遠い空白い雲 | トラックバック(0) | コメント(8) | page top↑
I Stand Alone~ディーブ平尾
2011 / 11 / 29 ( Tue )
私は、以前御堂筋に沿った
ある喫茶でアルバイトをしていました。
そのお店には、今も私のお友だちがアルバイトをしていることもあって
私は、今の会社に就職後も、時々お顔を出しています。

そのお店のお客様に、
ある紳士の方がいらっしゃいます。

その方は高校を卒業後、いろんなお仕事を転々とされて
今は失業されています。
今年で52才になられたそうです。

真面目でおとなしそうな方で、
ギャンブルをされるわけでもないようだし、
タバコもお吸いになりません。
とても質素で腰の低い方なのですが、
どうしてもお仕事が続きません。

人間関係が不得手なのだそうです。

病院に通われたことはありませんが
ご本人いわく、
心の病だということです。

どうしてご自分がそうなのか
長い年月のうちに自己分析もされていて
そんな状態のご自分と
真正面から向き合っておられるようです。

もちろんご結婚もされていません。
ご両親も、もうおられないそうです。
ご親戚とのお付き合いもないそうで、
楽しみは、ごくたまに、このお店でブレンドを飲むことぐらいだそうです。

現在は警備員さんになりたいと、
履歴書を書いておられるそうですが、
ご自分の過去をどう書いたらいいのか、いつも悩まれるそうです。
最長で5年ほどしか、ひとつの職場にいたことがないので、
過去のすべてを書ききれないからです。

私の身辺には
なぜかこのような境遇の方が多く、
この街の、ひとつの特徴なのかもしれません。

私は、この方のご本名もご素性も知りませんが、
もう長くお顔見知りです。
いつから、この方とおしゃべりするようになったのか、
はっきりと私の記憶にはありませんが、
たぶん私がここで勤めていた頃に、何かのきっかけがあったのだろうと思います。

この方は指先がとても器用でいらして
お店の紙ナプキンで
上手に鶴を折られたりします。
そのほか、私が見たこともない折り方で、
熊や蛙や、キリンなどを折って見せてくれます。
紙ナプキンなので、そっと触れないと、
すぐに形が崩れてしまいます。

だから私は、いつもそーっと
この方から、できた折り紙を受け取って
手のひらにのせて、
お店の子に見せにいったりしています。

ある時に、
ふとこの方が
折り紙をしながら、私にこんなことを仰いました。

ボクは、ほとんど女性とお話したことがないんだよ。
たぶん君が、ボクの生涯で、一番お話した女性かもしれない。
神様がね、
きっとボクを憐れんでくださったんだろう。

そして、下を向いて、ちょっと照れ笑いをされました。

コーヒー一杯
20分間

この方は
毎日このお店に来られるわけではありません。
私も
毎日来ているわけではありません。
来ても
いつもこの方にお会いするわけではありません。

窓の外
御堂筋のイチョウが今年もきれいです。

21 : 09 : 42 | 遠い空白い雲 | トラックバック(0) | コメント(67) | page top↑
夜空ノムコウ
2011 / 10 / 03 ( Mon )
H子は、10年前は、
看護師になりたいと思っていたそうです。
それは、H子のお姉さんが看護師だったためで
妹も白衣の天使に憧れたのでした。
でも、結局は看護学校にいくこともなく、
商業高校を卒業したのち、小さな会社のOLになりました。

ワタリは、本当は画家になりたかったのですが、
もともと手先が器用だったこともあり、
途中で方針変更して、美容師になりました。
でも、今でもアートや絵画が大好きで、
美術館巡りなどを楽しんでいます。

S子は、少女時代から、ただひたすら『お嫁さん』になることだけをずっと夢見ています。
自分がたいしたヤツじゃなくても、旦那様が頑張ってくれれば、
必ず幸せになれると考えています。
今年から、花嫁学校に通ったりしていますが、
理想の旦那様には、まだお目にかかっていないみたいです。

ジライヤは中学を卒業後、中華料理店に就職しましたが、
長くは続きませんでした。
もともと、何になろうという目標もなく、
ただ、独立したかっただけの就職だったので、
彼女はその後、いろんな職を転々としました。
そして3年前にやっと、自分に合った技術者の道を見つけました。

蛇には、小さい頃から何の夢もなかったので、
高校を中退したのち、道にさまよって、迷子になりました。
でも、ある時期に、そうやってスネている自分が
つまらなく思えてきて、道を模索し始めました。
まだ道標は見つかっていませんが、
歩き続ければ、必ずどこかにたどりつくと信じています。

ヒロコは、小学生の頃から、花や樹などが大好きだったので、
植物学者になりたいと思っていました。
めざした学校には入れませんでしたが、それでも大学へ進学しました。
その中で、いろんな人とふれあい、いろんな街を旅行して
そして、将来の旦那様にもめぐりあえました。
来年、卒業と同時に、奥様になる予定です。

みんな、
あの日見た、空の色を
もう一度見ることはできません。
誰もが、
あの日見た、やさしい雲の姿に
もう再び出会うことはできません。

だから、私は、今日見た空の青さを
ずっと忘れずにいたいと思っています。

できるなら、
ずっと忘れずにいられたらと、
そう願っています。

09 : 21 : 29 | 遠い空白い雲 | トラックバック(0) | コメント(16) | page top↑
大いなる旅路
2011 / 09 / 14 ( Wed )
技術屋さんというのは、とても偏屈な方が多くて、
社交的な方というのは、少ないそうでありんす。

Nさんは中学卒業後、集団就職で、大阪へ出てきました。
そして東大阪のある工場で働きはじめました。
地味なお仕事であり、
また中卒のNさんたちにとっては給与面での待遇もいいとはいえず、
同期の仲間たちが次々と転職していくなかで、
数年後には、若手ではNさんだけがその工場に残った状況になってしまいました。

若手が続かないのは、給与面のことよりも、Wさんという厳しい技術屋さんがおられたためです。
この方は、相手が新人であろうが、社長であろうが、
お仕事面では、決して妥協を許さない人でした。
そのために、会社の幹部連からは、たいへん疎ましく思われていましたが、
お仕事においては、その会社の契約先が、Wさんを指名して、製品を依頼する場合も多く、
会社としては、この扱いにくい職人を解雇するわけにもいかなかったのです。

Wさんは、いったんお仕事を受けると、
給与に関係なく、自分が納得できるまで、工場に残って、
たったひとつの部品を仕上げようとする方でした。

今でも、東大阪の零細工場には、
こんなタイプの方がたくさんおられます。

Nさんは、いつのころからか、こんな偏屈なWさんとペアのお仕事をさせられるようになりました。
Wさんとペアを組んで、お仕事をしようという方が、ひとりもいなかったからです。
それからは、Nさんの地獄の日々が始まりました。
毎日のように、怒鳴られ、工具を投げられ、
ときに追い出され、何度退職しようかと考えたことは数知れません。
しかしNさんは、自分は不器用だし、勉強もできないし、
他の会社では通用しないことを知っていたので、
つらくても、つらくても、一生懸命耐えて、
やがて10年以上の歳月が流れました。

そして、ついにWさんが定年をむかえる日がやってきました。
Nさんは、やっと、地獄から解放されると思いました。
Wさんを憎み続けた、長い長い日々が、やっと終わるのです。
これで明日からは、怒鳴られずにすみます。

Wさんの希望で、会社主催での送別会は行われませんでしたが、
今まで一緒に働いた従業員たちが、
工場の片隅で、ささやかな『送る会』を催してくれました。

その席のおしまいに、
Wさんは仲間たちに、不器用なお別れの挨拶をしたあと、
一番最後にNさんのところへやってきました。

一瞬、最後の最後に、また、なにか怒鳴られるのかな、と思って、
Nさんはものすごく緊張したそうです。

でも、Wさんは、
最初、Nさんをただじっと睨んでいただけでしたが、
やがて、Nさんの肩に手をおくと、
ただ、じっとNさんを見つめて、
ぽろぽろと涙をこぼされたそうです。

その時、Nさんははじめて、
自分は、いじめられていたわけではなく、
『託されていた』ことに気がつきました。

その頃には、もうNさんも立派な職人になっていました。
ふたりの間に会話はありませんでした。
ただ、Nさんも、じっとWさんを見つめ、そして涙だけが、ぽろぽろと流れたそうです。

その時に、ふたりの職人の間で、ふたりだけがわかる、無言の『引継ぎ』が行われたのです。

それから30年、
Nさんは今でも、その工場で、Nさんを指名する取引先のためだけに部品を作っています。
若い助手が、ひとりだけ、ついています。
彼は、毎日Nさんに叱られ、工具を投げられていますが、
今日もNさんの隣で、黙々と作業をしています。

Nさんの一日は、
この若い助手が、今日も出勤しているかを確かめることから始まり、
この若い助手が、明日も出勤してくれることを祈って、終わるのだそうです。

19 : 55 : 08 | 遠い空白い雲 | トラックバック(0) | コメント(48) | page top↑
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